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セックスが浮き彫りにするあなたの本性【花酔ひ】

「支配、されてみたいのだ。抗いようのない言葉で従わされ、征服、されたい。プライドも、人格も、命さえもすべてゆだねるかわりに、とことん乏しめ、這いつくばらせて、虫のように扱って欲しい。
そう ー 虫だ。手も足もない虫。桐谷千桜の足もとにひざまずく時、誠司は思考も感情もどこかへ手放し、欲望だけが詰まった虫になる。」
(花酔ひ 第八章 爪痕 P220より)

 

私もあなたも誰にも言えない秘密がある。特に言っても解決できないし理解も難しい性の秘密ならなおさら。

 

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官能小説と聞いて、あなたはどんなイメージを持つだろう?「下品?」もしそんなイメージがあるなら、本著はそれを大きく変えてくれる。私もかつてそんなイメージを抱いていた1人だから。

 

私にとって、村山由佳(著者)の作品を読むのは『ありふれた愛じゃない』以来である。こっちの作品は恋愛小説として読み始めたのだが、語弊を恐れずに男目線で感想を言うなら、『花酔ひ』同様、女性が理性と躰それぞれで求めることは別。つまり本当に求めているのは快楽のセックスだということ。

 

そのせいで、村山由佳の小説にセックスは付き物という勝手なイメージが付いてしまったのだが、内容はいずれも濃く深い人間模様が描かれて面白いので、好きな作家となった。

 

さて、この作品のあらすじ、面白さをお話しよう。


1.ドS同士の夫婦とドM同士の夫婦計4人によるW不倫

サブタイトルの段階で既に波乱だが、あらすじはこちら↓

 

「浅草の呉服屋の一人娘、結城麻子はアンティーク着物の仕入れで、京都の葬儀社の桐谷正隆と出会う。野心家の正隆がしだいに麻子との距離を縮めていく一方、ほの暗い過去を抱える正隆の妻・千桜は、人生ではじめて見つけた「奴隷」に悦びを見出していく……。かつてなく猥雑で美しい官能世界が交差する傑作長編。」
(花酔ひ 背表紙より)


そしてメインの登場人物4人がこちら↓

 

  • 主人公:結城麻子

務めていた会社を辞め、実家の呉服屋を継いだ女性主人公。家族からはとても愛されて育ってきた一方、後に桐谷正隆のしたたかで小動物を狩る蛇のような色気でに触れ、自身のMな部分に気付かされる。

 

  • 結城誠司

麻子が以前勤めていたウェディング事業の会社で、彼女と仕事を共にして社内結婚。幼少期に身についた性癖と、現実の屈折した感情が入り混じる作中一番のドM。

 

  • 桐谷正隆

葬儀屋会社「セレモニー桐谷」の社長に気に入られ、一社員からトップの右腕にのし上がった静かなる野心家。野心家故の支配欲のあるドS。

 

  • 桐谷千桜

「セレモニー桐谷」の社長令嬢。正隆とは2年の交際を経て結婚。一児の母でもある。幼少期に勃起不全の伯父との性経験を秘めた作中一番のドS。


2.人は誰にも言えない秘密を抱えている

大切な恋人や気の許せる親友でさえも言えない秘密は誰にでもある。それは、恥ずかしくて知られたくないではなく、伝えたところで何も解決できないというニュアンスの方が強いからだ。

 

メイン登場人物の4人はさまざまな理由で結婚しているし、桐谷夫婦に至っては子どももいる。そんな4人がそれぞれの好きなプレイをパートナーに正直に伝えてもどうしようもないのだ。

 

例えば作中では、躰よりも心の繋がりが大事だと信じる結城麻子(後に躰の快楽に揺れてしまうが)と、社内での立場は高いはずなのに、妻麻子と比べて思うような人生を歩めていない自分への劣等感、そしてそんな自身を誰かに蔑まれ罰して欲しいという想いを秘めたドMな誠司。

 

誠司は元々、企画職を志望し、現在の会社に就職したが、実際にそれは叶わず別の部署に配属されることになった。

 

そんな彼とは対照的に、後輩として企画職として入社してみるみる内に活躍して、周りからの称賛を受ける麻子に、自分の企画職としての才能の無さ、彼女との比較により劣等感が生まれた。しかし、これは誰にも知られることなく、ひっそりと彼の中に渦巻いていたのだ。

 

見た目は優しく誠実で、会社の人達からも評判はいい。だが、その実やりたかったことでは才能のない自分を罵倒、罰してくれたらという想いは見た目や言動からでは誰も気付くことは出来なかっただろうし、満たされることもなかっただろう。

 

桐谷千桜と彼女の鋭く尖ったピンヒールに出会うまでは…。

 

3.性的快感をくれた相手にのめり込む

「こんなの初めて…」いかにもエロ本でありそうな台詞だが、こんな経験で相手のことを夢中になる現象は男女問わず起きるようだ。

 

少なくとも、私はかつて付き合っていた女性とそれに近い経験をしたことがある。

 

詳しくは私と彼女2人だけの秘密ということで、詳しくは伏せるが、以前彼女によって自分自身も気づかなかった点を突かれたのだ。

 

その時の強烈な快感が、私の中で愛撫を挿入に匹敵する快楽を与えるものに変え、彼女と別れた今もなお、その記憶は影のように私を縛りつけ、当時突然に別れを切り出した彼女を止めなかった自分を責める日々に苛まれたほどであった。


さて、話を戻そう。

 

物語が進み、桐谷正隆と結城麻子が2人でホテルに入った後日に、誠司も千桜と初めての夜を送ることになった。いや、千桜によって一方的に射精を許されず、痛みと恥辱だけを与えるSMプレイを受けるのであった。

 

しかし、これが誠司の求めていたパズルのピースだった。翌日この強烈な快感を思い出して、帰りの新幹線でトイレに駆け込み、自ら叫びそうになる口を抑えながら自慰に至るシーンは鳥肌が立つが、男だと衝動的にそうしたくなる瞬間はあると思う(こんな経験の有無を問うアンケートは見つからないが)。

 

それぞれが「これだ!」と見つけた性の快感は悲しくも不倫によって見つけてしまう。そして、このW不倫は身の毛もよだつ衝撃的な結末を迎えるのであった…。


4.本著を振り返り、私はこうしたい

セックスは人の本性を浮き彫りにする。これは理屈の話ではなく、本能の話だ。ただ、相手の関係を巻き込む不倫で本能を優先した結果を想像しないといけない。特に子どもがいるのであれば。

 

ある程度自立した大人ならまだしも、一人で生きる能力を得るべく大人に育ててもらわないといけない子どもにとって、不倫、浮気による家庭崩壊は子どもの心に、人を信頼できなくなったり、大事にしていた親を奪われたなど、将来に影を落としてしまう。


しかし、本当の問題は、いざ私がそんな本能や衝動を覚えてしまった場合の話である。人は気持ちのいい方に流れてしまいがちな生き物であり、「これはいけないことと分かっているから我慢しなきゃ…」と、その本能に逆らうことがとてつもないストレスだということはあなたも経験しているはず。

 

「自分が誠司の立場だったらどう自分を救うか?」2つの点で解決を図ろうと思う。

 

  • 人との比較から解放する

誠司は妻麻子との比較で現在の自身の劣等感を作ってしまっている。私もかつての彼女が今を活躍する女性として記事に取り上げられ、多忙を極めているというのを見て、反射的に嫉妬心を抱いたことがある。

 

たしかに、彼女は私にはない才能、スキル、運を持っている。ただ、実のところそれが私自身が劣っているということを証明する理由にするには不十分。

 

そう言える理由は、同じ環境と条件に置かれていない2つの物事を比べても、主観が混ざってきちんと測定出来ないし、違いはあれど、何をもって劣っているかの判断基準に絶対がないからである。

 

自分の才能を見つけることや、努力が実る期間は正直バラバラだ。早ければ早いほどいいという話でもなく、早すぎて逆に才能を伸ばしきれない人もいるぐらいだ。

 

結局は自分が自分自身をどう思えるかにかかっている。

 

人との比較ではなく、自分の弱いと思うところと、どう折り合いを付けて自分を磨いていくか考えない限り、永遠に劣等感の問題から解放されやしない。

 

そして、「自分はダメ人間だ」とか「こんな自分を罰して欲しい」と、自分を責めて人との比較をやめない限り、ダメ男に捕まったり、お金ばかりがかかる信仰にすがるなど、どこかで間違った心の埋め方に依存するのだから。

 

  • 他の性癖を見つける

相手に理解されないし、好ましく思われていない性癖を要求するよりも、もう少しマシな方法がある。

 

自分の新しい性癖を見つけることだ。

 

生殖本能であるセックスに理性でもって満足するのはまず無理だ。

 

満足いかないという感情に無理に我慢して蓋をすれば、いつまでも2人交わったふりだ。

 

そんなわけなので、もう少し楽に向き合う方法として以下のようにしたいと思う。

 

セックスを新しい自分を見つける冒険として楽しむ。新薬開発のように試行錯誤で望めば、日々ありとあらゆることを試してみたくなるし、パートナーとの楽しみも増えるだろうし、それにセックスを2人の「冒険」だなんて素敵な感じがしないだろうか?

 

私も変わった性癖(詳細は伏せるが)とそのギャップに苦しめられてばかりで、満足する方法を見つけるのに苦労したが、「おお、これは!?」と思える快感を見つけた時には、既存の性癖を気にしなくて済むぐらいに自身の悦びを上書きできた。

 

もちろん、元々の性格やフェロモンという内の要素もあるので、プレイのやり方を変えるだけで簡単に済む話でもないだろうが、その時はいつもと違う香水を使ってみるとかもいいかもしれないぞ。

 

とにかく声をにして伝えよう。悦びの大きさはそれまでにかけてきた苦労に比例すると。

 

性癖も自分の劣等感も否定はしなくていい。

 

ただ、気にしなくて済むぐらいの何かで、自分自身を新しく上書きしたらいいのだから。

 

 

花酔ひ (文春文庫)

花酔ひ (文春文庫)

  • 作者:村山 由佳
  • 発売日: 2014/09/02
  • メディア: 文庫